ふくざきはる
2010年の大晦日、福井県武生にある御誕生寺を訪ねました。今回、私がお寺を訪ねたのには理由がありました。高校3年生になる「かたつむり学舎」の生徒が進む先の選択肢として、板橋和尚にお話を伺いに来たのでした。
「かたつむり学舎」とは、不登校、ひきこもりになった子どもたちが再び社会とつながり、自分なりに社会の中で暮らしていくお手伝いをする場所として、2008年に福岡県北九州市で私が立ち上げた民間の小さな留まり木です。現在、私の他、3人のスタッフがいて、子どもたちのニーズや方向性、ご家族の願い、スタッフのやりたいこと、得意なことに応じて、日程調整をして運営しています。
そこに所属する生徒の一人に高校3年生の子がいます。今のところ彼は特にやりたいこともなく、高校を卒業した後、何をしていこうかと相談しているところなのです。
彼は高校に入学してすぐ学校に行けなくなり、精神的にも辛い状態が続き、エネルギーがなくなってしまって何もすることができずほとんど家から出られない状態が1年くらい続きました。それで家族以外の対人関係もほとんど無くなってしまい、将来の選択肢となるための体験があまりにもないので、元気にはなってきたけど、選びようがありませんでした。それでまず、本人が嫌でないことで、こちらがいいと思うものを一緒に体験していくことから始めました。かたつむり学舎といっても私とスタッフ3名だけの知識や体験には限界があったので、SBSでのつながりにサポートしてもらうカタチで行っていきました。
具体的には、福岡県赤村にあるゆっくり村で後藤あきらさんと稲刈りや種取りなど農的な体験をしたり、石草窯で中村滋さんに陶芸を教えてもらったりしました。また美術館に絵を見に行ったり、数学や小論文を書いたり、本を読んで書評を作ったり図書館で調べ学習をしたりもしました。ゆず酢搾りなどSBSのイベントにもいろいろと参加し、SBS学生の大田美保さんのグアテマラの森を守るワークショップに一緒に参加した時には、環境についての意見をみんなの前で話したり、マヤナッツクレープを作ったりしました。
そうしていろんな人達と様々な体験をしていく中で、次第に彼のこの先の選択肢が幾つか浮かびあがり、その一つとして「僧侶」がでてきて、体験として実際に受け入れてくれるお寺を探している中で、御誕生寺にたどり着いたのです。今、彼は2週間の修行体験中で、帰ってきてからの体験談を愉しみに待っているところです。
ところで、お寺にいった際、通された部屋の壁にこんな言葉が貼ってありました。「あるは、あるがまま、ないは、ないがまま」板橋和尚の言葉でした。それをみて「ああ、本当にそのとおりだ」と感銘を受けました。
高校3年生の彼も私も「あるがまま」「ないがまま」で、活き活きと生きられたらいいのだけれど、この2年間「かたつむり学舎」で彼らと共に過ごしてきて、そして私自身のことを思っても、それは本当に難しいことだとつくづく感じています。なぜなら「あるがまま」「ないがまま」を表現できる場としての温かいつながりがあってはじめて、「あるがまま」「ないがまま」が表現できるのだろうと思うからです。
川の中を泳ぐ魚が川をスイスイと泳ぐように、木登りの好きな猿が森を喜んで飛び回るように、その生命が持っている特性を活き活きとそのままに輝かせることができる、川のような森のような場としての、あたりまえの温かいつながりをこれからもより強めていきたいと思っています。SBSでの温かいつながりの体験は、私にとって今もその見本となっています。
(2011年1月11日)