3,11以降、多くの人がそれまでの生き方を一生懸命に見直している。どこに住むか、何を食べるか?何を選び、どのように生きていくのか。その見直し作業につきまとう、たくさんの迷い、悩み。

ある日のこと。臨床心理士でSBS学生の福崎さんに、「人が迷い、悩むときに、心の面からのアプローチでなんか役に立つ専門的な知恵とか知識とかってないのかな?」という大雑把な問いをぶつけてみた。

すると福崎さんは、こう答えた。

「それが、あるんですよね。それを今、書きたいと思っていて・・・」

「え、マジで。じゃあ、書いてよ。すぐに書いてよ。はやく読ませてよ」と、私が矢継ぎ早に原稿依頼して届いたのが、下記のレポートです。

(企画・編集 矢野宏和)

*******************************

二項対立を超えて ~悩みの綱引きから、宝さがしへの道~

3月11日、原発震災が起こってから3ヶ月が過ぎました。この3ヶ月、みなさんはどんなふうに過ごされてきたでしょうか。生死に関わるような辛い経験をした多くの人達が語るように、あの日から私にとっても「何が一番だいじなのか」を本気で見つめ直す日々が続いています。

日頃、私は臨床心理士としてクリニックでカウンセリングをしていますが、相談内容は、人間関係、仕事や将来のこと、子育て、不登校、ひきこもり、心身の症状のことなど、実に様々です。私自身もそうですが、人の悩みは尽きることがありません。

けれど多様に見える悩みには、ある共通点があります。それは、AかA以外かの、2項対立(【図1】参照)になっていることが多いのです。

先日もあるご両親と中学2年生になる息子さんが相談に見えられました。(プライバシーが守られる形で、一部加工しています。)お母さんとお父さんが困り果てて来談され、「息子が全く勉強をしない。どうしたものか。」というのです。勉強しないだけならまだいいけど、最近では「勉強が分からないから学校行って授業受けても面白くないから行きたくない。」と言いだしたそうなのです。
「そりゃ~勉強しなければ分からないだろう」と思ったお母さんは「勉強しなさい!」と言ったり、勉強の方法を教えたり塾や家庭教師を提案したりするのですが、何を言っても「う~ん…」と言ったまま動こうとしない。それで困り果てたお母さんは「お父さんも、なんとか言ってちょうだい」とお父さんをひっぱり出して、息子の前にお父さん登場。
「お前、どうしたら勉強するんか?」とお父さんが優しく尋ねると、「○○のゲームソフト買ってくれたら勉強する」と息子。「お母さん、ゲームソフト買ってあげたら?」とお父さんがお母さんに報告。「お父さん、何言ってんの?今まで、どれだけゲーム買ってきて、そればっかやって勉強せんやったか。お父さんも見てるやろ?」なぜかお父さんがお母さんに怒られる始末。「そしたらどうするん?」と困ったお父さん。「知りません!」と、「自分で考えてよ」って言わんばかりのお母さん。そんなこんなで相談に来られました。

お母さんとしては、お父さんがぴしっと言えず頼りないから息子が自分のことちゃんとできない子になったとお考えで、お父さんとしては、お母さんが怒ってばっかりで息子にギャーギャー言うから、嫌になってなんもしなくなった。だから息子の言い分もきいてやったらいいのにとお考えでした。息子の言うとおりにするのがいいのか、無理やりやらせるのがいいのか(やればの話ですが)ニントモカントモな2項対立は、こうして綱引きになり、どうしたものかと動かなくて困ってしまうのです。

このご両親のように力が均衡だと、膠着状態が続き、その状態自体が「問題」とされますし、力の強弱がある場合は、一時的にはどちらか強い方が思うようにやっちゃっている感じになりますが、結局は上手くいかず困ってしまうことが多いようです。例えば、お父さんがこっそりゲームソフトを買ってきて、息子に「勉強しろよ」って感じで応援したとしても、お父さんがいない時に息子がゲームしているのをお母さんが見つけて、「なにやってんの!えっ?お父さんに買ってもらったの?信じらんない!」ってことになって、息子のことで夫婦げんかが始まるなんてことになったりするのです。

それで解決するときは、どうするかといいますと、まぁ、ここからがもっともお伝えしたいことなのですが、この2項対立を超えていくことを試みます。それでは具体的な方法をステップごとに分けて説明していきましょう。

ステップ1「一つのことに対する見方はそれぞれ違った方がいい」という前提を共有する。
人は、一度した「ものの見方」をなかなか変えられないものです。

先程のお母さんも「お父さんが子どもに甘いから、子どもがダメになった。今回もちょっと勉強が分からないくらいで『学校に行きたくない』と言い出すような子になったのは、お父さんが甘やかしてきたから。」と息子さんが小学校入学時からずっと想い続けていたそうです。お父さんも「お母さんが口うるさくて怒ってばかりだから、息子が自分で解決できない子になっている。」とずっと思っています。そのお互いに対しての見方は、なかなか変えられません。

けれど逆に考えると、一つのことに対していろんな意見があるということは、いろんな視点を持つことができるということなので、その状態が問題解決に役立つ資源ととらえます。同じ子どもに対して、二人の親が、ある部分でそれぞれ違った見方をするというのは、子どもにとってみれば、選択肢が多くあるということなのです。

ステップ2 2つの意見(3つでも4つでもいい)の共通点を探す。

共通点を探すポイントは、チャンクを上げることです。チャンクとは、かたまりのことで、その抽象度を上げていくと共通点が探しやすくなります。

例えば、犬派と猫派がいて、「一緒に暮らすのに犬と猫ではどちらがよいか」で対立しているとします。犬派は、犬のの従順さが可愛いと感じ、一緒に散歩に行ける楽しさを主張して、「そりゃぁ絶対、犬だ。」というでしょう。一方、猫派は、猫の気ままな行動を可愛いと感じ、一緒に昼寝ができる心地良さを挙げ、「猫に決まってるでしょう。」というかもしれません。

この対立を終わらせ新たな方向を見つけたい時、抽象度を上げ共通点を探すのです。犬派と猫派の共通点は「動物好き」というような感じです。どちらも動物と一緒に過ごす心地良さを知っている人たちなのです。さらに、ここへカブトムシ派が加われば、「生き物好き」にすればいいのです。

先程のお母さんとお父さんの意見は、「どうやって息子に勉強させるか」という方法について対立していました。

お母さんは、勉強にしっかり取り組むような息子さんへの直接的な働きかけを望み、お父さんは、本人のモチベーションを尊重したカタチで勉強に取り組みたくなるような働きかけを望んでいました。

行動が先か、気持ちが先かという二項対立です。そこで、チャンクを上げるために「息子さんが勉強をすることで、どうなって欲しいか、息子さんにどんな力をつけてもらいたいか」という質問をしました。すると、ご両親とも「自分で考えて行動できる大人になって欲しい。」「社会に出たときに困らない力を身につけて欲しい。」と話されていました。その時一緒に来ていた息子さんも同じことを望んでいました。これまで勉強をめぐって綱引きをしていたご両親と息子さんを含めた3人の共通の願いが、こうして見つかったのです。この願いは、みんなの目標であり、ご家族がどこへ向かっていくかをしめす大事なものになります。ですから根気強く、慎重に探していく必要があったのです。

ステップ3 目標を実現するためのアイデアをみんなで出し合う。
目標が見つかったら、最後のステップは、その目標を実現するためのアイデア探しです。みんなの目標を実現するアイデアは、宝物です。ですからこの作業は、いわば宝さがしなのです。
先程のご家族ですが、この後の話し合いで、一番いい顔をしたのは、意外にも「勉強しないで学校行き渋っている問題児」といって両親に連れてこられた息子さんでした。

「自分で考えて行動できる大人になるために」今、何をすることがいいのか、彼自身に考えてもらったのです。参考として「社会に出たときに困らない力」とは何かについて、お母さんとお父さんの意見を聞きながら、ゆっくり考えつつ自分で導きだしていきました。「社会に出たときに困らない力」として、家族みんなが共通して挙げた一つ目は、「まず朝、自分で起きる」でした。さらに彼は、毎日の生活について、その日何をするか自分で決めて行動するということを決めました。ゲームをやる時間も、勉強する時間も、食事やお風呂の時間もいつもお母さんから言われてしていたりやめたりしていたことを自分で事前に計画してやるようにしたのです。その代わりお母さんは何も言わず見守ることとなりました。計画通りやれた日はシールを貼ることにしました。シールが100枚たまると、欲しかったゲームソフトが頑張った自分へのご褒美としてもらえる約束を両親としました。

こうして新しい方法が決まっていく中で、息子さんは嬉しそうな顔をする一方で、お母さんは心配を募らせていました。「もし計画でずっとゲームをすることにして、ずっとゲームをしていたら、社会に出たとき困らない力がつかないんじゃないか」というものでした。「ゲームだけをずっとすることで社会に出る力がつくと思ってないよね?」と私が尋ねると、戸惑い気味に息子さんが返事をしました。それを見て、お父さんが「自分で考えて自分でやれる時間をこの子がどう使うか、実験期間だと思って、私と妻とで観察していきます。どうしてもやれなかったら実験期間が終わった後、別な方法をまた考えます。」とかっこいい一言。お母さんがお父さんに対して、これまでにないほどの尊敬のまなざしを送っていたのを見て、私も嬉しくなり、実験期間を決めて、ひとまず面接は終了しました。

その後の彼はといいますと、ゲーム三昧な時間も楽しみ、お手伝いや勉強をする時間も楽しみ、毎日を過ごしています。こうなるともう「親の言う事をきかせる」とか「子どもの言うとおりさせる」というのは問題ではないのです。ご両親と彼にとって「自分で考えて自分で行動する」ための毎日がただあるだけなのです。家族の目標がどのように達成されているか、その目標を達成するのに今の方法が合っているか、そういうことを見定めながら、今も毎日を過ごしてらっしゃることと思います。素晴らしいご家族だなぁと感じると同時に、こうして二項対立から宝探しへのステップを紹介しつつも、私だったら彼らのようにできただろうかと省みつつ、日々の営みを続けています。

さて、原発震災から4ヶ月が過ぎた今でも、放射能は出続け、健康への危険性が危惧されています。眼に見えず、またすぐには健康被害が出ないだけに、その危険性が分かりにくいのも現状です。小さなお子さんと暮らしている親ごさんならなおさら、今いる場所から「逃げた方がいいのか、逃げなくていいのか」と迷われることもあるかと思います。「危険だ」という人もいれば、「気にし過ぎだ、大丈夫」という人もいます。「考えるとしんどくなるので、もう考えたくない」という人もいるかもしれません。緊急的に張り詰めた気持ちを維持できるのは、1~2週間が限界ですから、4ヶ月以上たった今、危機的な状況として日常を考え続けるのは無理があるのも当然だと思います。

では放射能の危険性に対して、私たちはどう考えていけばいいのでしょう。ここでも先ほどの2項対立を超えていくという解決法が役立つかもしれません。「大丈夫」だという意見、「心配」という想い。他にも「仕方ない」「子どもがかわいそう」「将来が不安」「淋しい」「分かり合えない」気持ちなど、まずはいろんな気持ちや意見があることが良いことだという前提に立ってみます。なぜなら視野を広げる選択肢が豊富にあるということだからです。

そして次に、そこに関わる人達の共通の目標を探します。「健康に暮らしたい」「家族と一緒にいたい」「食べ物に困らないようにしたい」「外や自然の中でおもいっきり遊びたい(遊ばせたい)」「気持ちを共有したい(分かって欲しい)」など、いろんな共通点があるかと思います。そしたらそれらを実現するためのアイデアをみんなで出し合うのです。そう、宝さがしです。アイデアを出す段階では、現実的がどうか判断することをひとまず置いておく方がよいかもしれません。その方がこれまで思いつかなかったようなアイデアがでることがあるからです。自分たちだけでは浮かばない場合は、他の人や体験談を聴いたりするのもいいかもしれません。2項対立の綱引きの中で交わす会話は殺伐として辛いものですが、自分たちの共通の目標や、生きていく価値を形作るための宝さがし的な会話は、とても潤いのある素敵なものとして体験されることと思います。

こうして自分や家族の望みや願いから共通の目標を明らかにしていく作業は、「何が一番だいじなのか」という根源的な問いを明らかにしていくものだと思います。いわば自分が生きていくための指針のようなものだと思うのです。ですから、すぐには結論がでないかもしれませんが、話し合い模索する過程そのものが生きていくことにおいて重要だろうと思います。まぁ、そうはいいましても、私自身のこととなるとなかなか上手くいかないもので、些細なことに奮闘している毎日です。また機会があれば、その奮闘っぷりをいつかご披露できればと思っています。
SBS学生 福崎はる