半年に一度くらい、僕はSBS学生仲間の村上和浩さんに、「今、どうしているの?」と電話をかける。その応えがいつも「えっ?」と驚かされることが多い。「いま、機織の特訓中」とか「ふんどしにはまっている」とか。
とにかく村上さんというSBS学生は、いつも何かにチャレンジしていて、ぼくは幾分、驚かされることを期待しながら、その日も彼に電話したのだが、そのときの返答には、これまでで一番、驚かされた。
「今、小学校の教育実習なんよ」
「へっ?教育実習って、フリースクールの?」
「いや、いや、文部科学省の小学校」
「え、村上さん学校の先生になるの?公務員の」
その時、ぼくは、村上さんには本当に申し訳ないとは思うのだが、「なんで、そんな無駄なことを」と思ってしまった。
ぼくのなかでは、もはや日本の一般的な学校教育は完全に崩壊していて、明るい未来や希望などとても抱けるものではなかったから。
なぜ、そんなところに身を投じるのか?僕は深く疑問に想い、その疑問に対する応えを村上さんに書いていただくことにした。
(企画・編集 矢野宏和)
~私が、文部科学省の小学校の教師になる理由~
村上和浩(SBS学生)
いま私は小学校の教員免許を取得して教師になろうとしています。人にそう言うと、なぜそんなストレスの多い職場をわざわざ選ぶのかと、よく不思議がられます。長男が通う小学校でも学期途中で辞めた担任がいるし、保護者対応が大変だという話をよく耳にするので、本当に大変な職場なのかもしれません。それでもそんな場所に飛び込むことにしました。
3年前に始まった職業人生の立て直し作業は、化学か環境関係のはずが、いつの間にか教育という方向に導かれていきました。その経緯と想い、やりたいことを述べたいと思います。
教育にはもともと関心があったのですが、主なファクターの1つにはボーイスカウト教育があります。小6から始めて、やがて指導者になり、ボーイスカウト隊の隊長を10年間務めました。月1、2回週末に子どもたちを指導する中で、何か子どもたちに元気が無い、あるいはエネルギー漏れしているような感じがずっとしていました。これが何なのかを解明するためにも、もっと子どもたちと日常的に関わる必要がある。生きる力を養うためには野外活動も大切だが、社会を築くためには知識を習得することも必要であり、両者の整合性をとることにも取り組みたい、などと思うようになりました。
また『波動の法則』(足立育朗著)という本に出会い、「教育の本質とは何か」ということに目を向けるようになりました。それからデモクラティック・スクールというものを知り、自分が学びたいことを学びたいときに学ぶこの学校は本質的な教育の姿であると感じました。実際この学校の子どもと話をすると、とてもしっかりしていてびっくりさせられます。そして校種の中でも小学校へ収束したのは、宮城教育大学の学長だった林竹二氏の影響が大きいでしょう。
文科省の義務教育はいつの時代も問題を抱えているけど、それを教える学校に子どもたちが通うのは常識とされています。学校がつまらないという生の声は、今もよく聞きます。モンテッソーリ学校やデモクラティック・スクールに行ける子どもたちは、まだましかもしれない。しかし、大多数の子どもたちは普通の小学校に通っているのが現実です。登校拒否や学級崩壊は、現行の教育システムに対する子どもたちのメッセージではないかと捉えている。ではそのシステムを変えればいいと思っても、相手はあまりにも強大で途方に暮れてしまうだけでした。
林竹二氏の著作には、彼の授業中における子どもたちの様子の変化が克明に描かれています。子どもたちはその授業によって、開眼したかのような意識の変化を体験しているのは衝撃的でした。授業とは、人間の一生を変えるくらいの影響力を持っている重要なもののようです。彼のおかげで、小学校の授業の可能性というものに目を向けられるようになれたのです。文科省の教育にあきらめの意識を投げかけるより、その中に飛び込んでみようと。現在の学校を取り巻く状況から、まず林氏の時代と同様にはいかないだろうが、出来ることから始めてみようと思いました。
私の願いは、一言でいえば子どもたちと一緒に未来を創りたいということです。それを行うための人材育成や学び合いを日本の教育システムの枠の中で、どこまで出来るのか。教学校教育に携わる人たちがどのように現場を捉えているか知りたいし、自分をぶつけてどこまでやれるかやってみたい。枠の外から働きかける方法もあるが、枠の中でしか出来ないことをやることに自分の役割があるような気がしています。
教育とは「教える」という行為を通して先生と生徒の双方が学ぶものだと捉えています。子どもたちに伝えたいことは、真実(時代を繰り返さないためにも)、ヒント(答えではなく)、何がわかっていないのか(理科の教科書にはよくわかっていないことも既にわかっているものとして書かれている)等です。ここでは書ききれませんが、文科省が掲げる「生きる力」を育むことに本質的に取り組みたい。そして、子どもたちには将来的に「いのちを大切にする仕事」をしてもらいたいので、自分自身が「いのちを大切にする仕事」を教育現場で実践していきたいと思っています。
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